【小説】02 サッカー人生

絶望的なレベルの低さ

 

12ー13歳のカテゴリはC(14-15歳はB、16ー17歳はA)と呼ばれ、1軍から5軍まである。光輝と直哉が配属されたのは最もレベルの低いC5である。恐る恐る初日の練習に参加した。どれだけレベルが高いのかと胸を躍らせながら。

 

そこで驚愕の事実が発覚した。あまりにも5軍のレベルが低く過ぎなのである。スローインすらまともにできない。日本人の自分が模範的なスローインの実践を強いられるという、想定外の「アクシデント」つきだ。先が思いやれると思いつつ、週末のリーグ戦に参戦。システムは4−3−3で光輝は右サイドバック、直哉は左サイドバックを命じられた。

 

試合は5−0で圧勝。自陣の低い位置でボールを持つと、そのまま攻め上がり4人、5人と抜いてそのままゴール。GK出身の自分がである。無論、フィールドプレーヤーとしての能力は直哉のほうが勝るので、彼も独走態勢からゴールを3度も決めた。何と言うか、まったくもって充実度がなく、腰が砕けてしまったようだ。

 

しかしアマチュアといえどもそこは競争社会。実力さえ認められれば上のクラスに昇格することができるという。入団から半年余り経過した時であろうか。光輝と直哉はC4へ。そこでもふたりは活躍しC3へステップアッップ。このクラスでも実績を求められC2行きを命ぜられた。ついに2軍まで来たと感慨深げであったが、ようやく光輝にとっては適当なレベルでプレーできる機会を与えられたと言える。一方の直哉は物足りないようで、ディフェンダーとしての高い能力をここでも遺憾なく発揮することになる。

 

C2でも半年余りプレーした時であろうか。光輝はディフェンダーのポジションが嫌になりフォワードでのプレーをコーチに志願した。しかしオランダ語はもちろんのこと、英語ですら自らの意志を伝えることはできない。そこで父親に英語での表現方法を教えてもらい、丸暗記してそのフレーズで直訴。オウムのように15分ほど同じフレーズを繰り返し、ようやくコーチに理解してもらえた。この兄弟ふたりは語学力は皆無ながらも、あまり現地の言葉を習得したいという、このあたりの向上心を持ち合わせていなかった。これが後々、チームメイトから不信感を買うことになるとは露知らずに……。

 

さてC2での試合である。光輝は後半から出場しハットトリックを達成。3−2での逆転勝利に貢献したのである。この活躍がC1のコーチに届いたらしく、遂に1軍から招集がかかったのである。直哉にももちろん声がかかった。

 

ある意味、ようやくふたりはオランダで「普通」のレベルでプレーできるようなったのである。そしてこれまでとは別世界の風景を目の当たりにすることになるのであった。