【戦国時代】城塞(上) 恐ろしき、政治の妖怪家康

 

城塞 (上巻) (新潮文庫)

城塞 (上巻) (新潮文庫)

 

 

司馬遼太郎著の「城塞」は上・中・下があり、まだ上を読了した段階。とにかく長い、上だけで600ページ、大作である。

で、この城塞、大坂冬の陣や夏の陣などを通して豊臣家滅亡が描かれているのだが、まだ上では夏の陣にも至っていない。が、戦う前にして負けるのが明白であることが嫌でも分かってしまう、この悲しさ、切なさ…。

そう、とにかく悲しいのである。何がって、秀吉亡き後の豊臣家が酷過ぎる。秀吉の子、秀頼は大阪城から出たことのない世間知らずで、彼の人柄を知っているのは誰もいないの?ってくらいナゾ多き人物。大阪や京の町では阿呆だから人前に出せないのではないかと噂される有様だ。

秀頼を外に出すことを許さなかったのは母で、実質、豊臣家の舵を取る淀殿。常軌を逸するほどの過保護ぶりにして女帝ぷりも発揮するのだが、政治ごとも身内の女性だけで固めて決めてしまう。

無論、女性が悪いという意味ではなく、戦場に出たことがないので戦い方も外交も調略も知らぬという、戦国時代末期とはいえ、家康に対抗できるだけの力はないということが十分に分かってしまうのが読んでいて辛すぎるのである。誰か助け舟を、とは思うのだが、女帝の決定には誰も逆らえずでして…。

ここで本書の一文を抜粋したい。

しかしこの程度の女どもが、この程度の女思案でうごかしているのが天下の豊臣家であるという事態を目のあたりに見て知っただけでも、ひとつの収穫であった。

この一文がすべてを物語っていると言える。

で、「辛さ」が出てきたかと思えば、次は「恐ろしさ」。家康がとにかく狂人のごとく悪人に映ってしまうのだ。

「政治の妖怪」

という言葉がこの家康にはピッタリとハマる。彼の政治手腕は人間を通り越し、妖怪の妖術のごとく、である。言わずもがな、軍事面でも秀逸な人物であることは「覇王の家」(司馬遼太郎)でも紹介されている。

言葉にするだけでも恐ろしいのだが、城攻めが苦手と言われた家康の採った策は何か?当時、西洋にもその名声が届いたと言われる最大にして最強の大阪城を落とすにはどうしたのか?それは本書を手に取り、確認していただきたい。

数々の権謀術数を繰り出す妖怪。二枚舌どころか三枚舌、四枚舌で、思い付きなどではなく、緻密な計画を練った上で、その策略を実際に形にしていく計算高さ。管理職にあるサラリーマンにも役立つのではないかと夢想してしまうのだが、こんなオヤジいたら本当に怖っ、である。

最後に余談だが、徳川側が大阪城に送りだしたある人物が人間らしい光を放っているのが唯一の救い?か。とはいえ間者なのだが、にしてもまだマシである。