【戦国時代】「真田三代」(上)火坂雅史 弱者の生き残り策

 

真田三代 上 (文春文庫)

真田三代 上 (文春文庫)

 

 

弱者の必勝法――。

と冒頭から格好つけてみたが、信濃の真田家は正にこの言葉を地で行く、戦国武将。真田昌幸(まさゆき)の父、幸村(ゆきむら)の祖父にあたる幸隆(ゆきたか)は土地を追われ、無一文で他家でメシを食らうニートのような存在であった。

とはいえ志は高く、いずれ真田家を復活させると鼻息荒く、甲斐の武田の家臣となり、徐々に実績を残していく。幸隆は人の心がどこにあるかを読み、利で人を動かす、という当時なら当たり前のように聞こえることだが、実際、人は利に弱く、そのスキを突く手法にて地位を確保していった。

その信条をより強固に実践したのが昌幸と言えるかもしれない。武田家に人質に出されたゆえにか、外から真田家を見て、また内から他家の武田を見ているだけに、現実主義者として育つ。主君を武田、織田、北条と次々と代えていったのも、その証左であろう。

まだ20代の頃、駿河の、若き日の家康と交渉事で邂逅しているのも見逃せない。

当時、信長に仕えながらも、独立した大名として地歩を占める、家康のその姿は将来の昌幸のあるべきものを映しているようにも思える。

本書ではこのように淡々と真田家の活躍が描かれているのだが、記述の通り、隆幸、昌幸に共通するのはしたたかな戦術家であるという点だ。

そして昌幸の子、幸村、「真田日本一の兵」(にのもといちのつわもの)にその伝統は引き継がれ、「真田三代」はクライマックスを迎えるのであろう。下巻が実に楽しみである。

若干8歳にして孫子の兵法をそらんじた幸村。これには幸隆も驚かされたが、日本一の兵、であることを下巻で披露してくれるはずだ。

2016年の大河ドラマ真田丸である。これを観る前に、予備知識として本書を読むのもいいかもしれない。